生活の話

 恋人と東北へ旅行に行ってきた。二泊三日で、車で。
想像よりいろんなことができたし、想像より楽しかった。東北は雪が有り余っていた。
 帰りはした道で帰ってきたので六時間半くらいかかった。家に着いたのは深夜二時ごろ。すぐ寝れるように、まず洗面所に直行し、歯磨きをして化粧を落として顔を洗った。荷ほどきは明日に回し、荷物はそのまま置いて、布団乾燥機をつけておく。部屋着に着替えて、保湿クリームとリップクリームを塗る。携帯の充電器だけ荷物から引っ張り出して布団へ向かう。十五分ほどしか布団を温められなかったが、布団乾燥機を止め布団に入る。半分くらい温まっているが、足元の方はすっかり冷えている。体をまるめて温まっているところになんとか体を収める。冷え性なので、冬の布団の足先部分ははいつまでたっても温まらなくてかなわない。でも、寝るときに靴下をはくのは何となく嫌なのだ。足がでかいので、普通の靴下をはくとつま先が突っ張って窮屈。日中は耐えられるけれど、家に帰るとすぐに脱いでしまう。大きいサイズのルームソックスを買おうかと思ったが、ルームソックスを買う女になるのが嫌でやめた。あと、かわいいルームソックスを見たことがなかったし。それでも寒いので、やはり買おうか悩んでいたころ、風邪をひいた。久しぶりに頭がだるい症状がでて、本を読む気もせず映画を観る気も起きずで、暇でしょうがなかった。そんな時、ふとかぎ針編みがしたくなったので寝るとき用のぶかぶかの靴下を編もうと考えた。昔はまったころ、毛糸をやたらと買ったが、毛糸を買ったらすぐに飽きてしまったという事があった。道具はそろっていたのですぐ編み始められた。風邪の時の編み物はよかった。単純作業は頭に響かないし、何かを作っていると安心した。しかし、長引くと思っていた風邪は、処方された薬をきちんと飲んだら二日ほどで治った。治ると編み物をする気がなくなり、くるぶしの上くらいまで編んだ靴下の片割れと、毛糸玉が一緒に散らかったまま放置されている。その後、予定が詰まっていたり、今回の東北旅行があったりで、結局靴下は完成されることはなく、編み物ブームは去った。
 布団で丸まりながら、ここ三日見ていなかったインスタグラムの投稿やツイッターを暗い部屋で眺めていた。見ていたら一時間ほどが経っていて、目が冴えてしまった。旅行の写真を眺めながら、旅行のことを思い出していたが、結構楽しかったせいで悲しくなってくる。こういうことが最近多い。東北の雪山や、田んぼに雪が積もって、真っ白な地面がずっと広がっているのとか、町中にまばらに見かけた現地の中学生は傘をささず雪の中を歩いているのを見て、やっぱり雪国の人は傘をささないのか、とか話していたけど、出歩くおじさんたちはみんな傘をさしていて、そうでもないね、とか話したのとかを思い出していた。日本はあんなにでかかったのに、わたしはもう自分の家の布団にくるまっている。旅行の間に二十歳になった。アルバイトを始めてから、たまの非日常のために金を稼ぐ大人になりたくないと、おもうことが多くなった。結局二十歳になっても何にもなりたくなかった。恋人との旅行は楽しかったが、もうあんまりよく思い出せない。恋人といた、という時間と空気ばかり思い出す。旅行をしたのが、家の布団に沈むわたしと同じ人だったのかよくわからない。東北の空気を肺の奥まで吸った気がしなかった。でも、なぜだか、初日に泊まった宇都宮の、少し古いラブホテルの風呂場の扉をあけたときの、ひえた空気だけはわたしの肺の奥まで入ってきた気がする。